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大阪地方裁判所 昭和50年(ワ)4364号 判決

主文

原告らの請求はいずれもこれを棄却する。

訴訟費用は原告らの連帯負担とする。

事実

(当事者双方の申立)

原告らは「亡渋谷喜太郎(以下「喜太郎」という)が昭和四七年六月一日作成した自筆証書として昭和四九年六月一一日大阪家庭裁判所の検認を受けた遺言書による遺言は無効であることを確認する。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決を求め、被告らは主文と同旨の判決を求めた。

(原告らの主張)

一  原告渋谷〓治、同北村淑子、同渋谷喜久子はそれぞれ昭和四九年三月一八日死亡した喜太郎の二男、長女、次女であり、被告渋谷〓治郎(以下「被告〓治郎」という)は喜太郎の三男、被告渋谷治代(以下「被告治代」という)は被告〓治郎の長女である。

二  ところで、喜太郎が昭和四七年六月一日自筆証書によつてなしたものとして昭和四九年六月一一日大阪家庭裁判所で検認を受けた遺言書(以下「本件遺言書」という)が存在し、右遺言書とよると、喜太郎の遺産の大部分を被告らに与えることになつている。

三  しかしながら、本件遺言書は、喜太郎ではなく、同人の妻渋谷於石(以下「於石」という)が作成したものであつて、偽造された遺言書であるから、本件遺言書による遺言は無効である。

四  よつて、原告らは、喜太郎の遺産に対する相続分を確定するため、本件遺言書による遺言の無効確認を求める。

(被告らの主張)

一  原告らの主張一及び二の事実は認め、同三の事実は否認する。

二  喜太郎は、本件遺言書作成当時、脳動脈硬化症の後遺症のため手の震えがあり、かつ老人性白内障により両眼の視力が〇・〇2であつて自署する能力はあるが執筆に難渋したため、本件遺言書の作成に当つては於石から手を添えて運筆の助けを受けはしたものの、喜太郎自身が右手にマジツクペンを持ち次に書く文字を声に出して明らかにしながら、執筆したものであつて、本件遺言書は喜太郎の主導により同人の意思に基づいて作成されたものである。

そして、このように手が震えて運筆に難渋する遺言者の為に、他人が遺言者の手を支えて遺言者の欲する文字を書かせた場合、遺言者が自署したものとみるべきである(大審院昭和六年七月一〇日判決・民集一〇巻七三六頁参照)から、本件遺言書による喜太郎の遺言は無効ではない。なお、本件遺言書の内容は喜太郎の真意に合致するものであつて、この点からしても右遺言は有効である。

(証拠関係)(省略)

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